特集「尾張茶人名鑑」

尾張の茶人たち

過去の勉強部屋で採り上げた、尾張の茶人の略歴を一覧でご紹介。(随時更新)

江戸中期(17~18世紀)

河村曲全(かわむら きょくぜん)

江戸中期の茶人。通称は天満屋九兵衛、別号に謝青菴。家は材木商を営む豪商。

茶ははじめ宗和流・中島正員に学んだのち、表千家六世・覚々斎原叟の門に移って、真台子皆伝を受けた。後に町田秋波松尾宗二を名古屋に招請し、千家の茶風を尾張に広めることに尽力。古器の鑑定にも長じ、好みの茶器も造っている。高田太郎庵と並ぶ、江戸中期の尾張・町方茶人の代表格。

多数の茶友・門弟に慕われ、その交友関係は町衆だけでなく、風雅を求める武士にまで広がった。(小沢詳軒、大橋遅松、山本自敬軒、千村伯就など) また、子に河村宗智、孫に河村蝸牛、河村秋穂がいる。

参考:尾張の町方-河村曲全

高田太郎庵(たかだ たろうあん)

江戸中期の茶人。家業は飼馬を生業とし、通称は藪下屋三郎左衛門。20歳頃から京都で画を狩野常信に学び、画も堪能。画号は良斎、朴黄狐などがある。

茶は岡田野水らに誘われ、はじめ宗和流・中島正員につき、表千家六世・覚々斎原叟の門に移った。江岑50年忌の茶会の際、原叟手造の茶碗「鈍太郎」をくじびきであて、太郎庵と号した。曲全とは同世代・同門の茶人として懇意であったようで、二人の合作の画賛も知られる。江戸中期の尾張・町方茶人の代表格。後に久田宗也に師事し、真台子皆伝を受けている。

晩年は古渡橋の南方の地に隠居し、茶の湯三昧に耽った。

参考:尾張の町方-太郎庵

岡田野水(おかだ やすい)

江戸中期の茶人。名は幸胤。芭蕉門の俳人でもあり、野水は俳号。名古屋・大和町の呉服豪商「備前屋」を生業とし、町役人(惣町代)も勤めた人物。

茶は、はじめ宗和流・中島正員につき、教授寺で集まって稽古をしていたが、後に上洛し、表千家・覚々斎原叟の門下となる。尾張で千家茶道が流行すると、師が乏しいことを理由に門人の派遣を要請。町田秋波が尾張へ出張稽古に出向くきっかけとなった。曲全太郎庵よりは上の世代であり、尾張城下町の顔役として、周囲を巻き込んで茶道の流行を生み出した人物の一人。

参考:尾張の町方-教授寺の集い

伊藤道幽(いとう どうゆう)

江戸中期の茶人。名古屋の呉服小間物商・伊藤屋(現在の松坂屋)4代。名は祐政。通称は次郎左衛門。

野水たちと同様、茶を中島正員について宗和流を学びはじめたが、千家茶道を学ぶために上京。当時、評判になっていた武者小路千家の宗守5世・文叔 or 6世・真伯)に師事。野水曲全たちよりも先行して、尾張の町方の人間で千家流の茶道を学んだのはこの人が初めてだと言われる。

なお伊藤次郎左衛門家は6代~9代まで当主の夭折が続き、未亡人の宇多が10代当主を務めるなど困難な時期が続いた。こうした事情もあって、武者小路千家の系統としては続かなかったが、11代・祐恵が京都で松尾家の翫古斎宗吾と知遇を得て以来、松尾家の交友が始まっている。

参考:尾張の町方-武者小路千家

中島宗員(なかじま そういん)

江戸中期の茶人。名を宗員とする書籍が多いが、宗貞とする書籍もあり、詳細は不明なところが多い。

自ら茶の湯の師を求めて上京し、金森宗和の直門だった北野の松梅院・俊岳という僧侶について学ぶ。そして尾張に戻り、宗和流の茶を広めた人物。「師伝正しき茶」を初めて尾張の町方に持ち込んだ。

その後、尾張で千家茶道が流行し、宗和流の系統は続かなかった模様。この理由も定かではなく、諸説ある。

参考:尾張の町方-宗和流

町田秋波(まちだ しゅうは)

江戸中期の表千家流の茶人。京都の人。

もとは彦根藩に武士として仕えていたが、後に京都へ上って、表千家に入門。はじめ久田宗全に茶を学ぶ。その後、覚々斎を支え、晩年は尾張へ出張稽古を行い、教授寺を道場とした。出張教授として尾張に来ていたのは亡くなるまでのわずか3年間だったが、曲全とは特に懇意だったと伝わる。

秋波の歿後は、松尾宗二が千家の出張教授として尾張に出向くことになる。

参考:尾張の町方-教授寺の集い

江戸中期の茶人の生きた時代

幕末~明治

刑部陶痴(おさかべ とうち)

幕末~明治の人。元尾張藩士。維新後は玄(げん)と名乗った。

明治維新後、二の丸御庭にあった猿面茶室を払い下げられ、末森村入船山(現:千種区)の自邸に移し、これを山荘として茶事三昧の生活を送る。

茶道のほか、和歌を石橋蘿窓に学び、書画・骨董の蒐集を趣味とした。特に瀬戸の陶器研究に秀で、明治18年から瀬戸陶磁工組の頭取として5年間在職し、「瀬戸の花」を編纂。この膨大な史料が現在の尾張周辺の古陶磁を知る上での基礎になっており、瀬戸の陶工たちの名前が今に伝えられている。

ごくわずかだが、手造の茶器も現在に伝わる。

参考:時空を超越する猿面

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