尾張の茶の湯NEXT08:香西文京

「余技作家」では比較的作品が多い人です。

前置きとして「余技作家」についてのお話をしました。

今回ご紹介する香西文京もこの余技作家のひとりです。

しかし、詳細については細かい点があまり分かっていない…ということをあらかじめご了承ください。

尾張の余技作家の中では古い年代の人

「をはりの花(風の巻)」によれば、文京は姓を「香西」といい、はじめは「正木」の姓も称していたようです。ですので、この人の名前は「香西文京」とか、「正木文京」とか、あるいは別号で「正木風禅」とか、いろいろと呼び名が一定しない人物です…。

一樂會誌では「正木文京」を採用しているため、先日のアートフェアではこちらの名前を採用しましたが…どの姓を用いるのが適当なのか、今もってよく解っていません。

尾張の国焼で「正木惣三郎」とか、「正木伊織」とか、あるいはこの人たちの焼き物を総じて「正木焼」とか呼んだりしますけど…実は「正木文京」はこれらとは全く関係のない人物です。

「正木」の名前で混同しやすいのですが…そもそも時代が全然違い、文京は江戸中期の人、惣三郎・伊織の親子は江戸後期-幕末の人物なのです。

こうした「正木だと混同しやすい」という事情を踏まえ、個人的には「香西文京」という名称を推したいですね…。

この方が区別がつきやすく、分かりやすいでしょ。

尾張の医師

詳しい生没年は分かっていないのですが…いくつかの断片的な情報が郷土史資料に残されています。

千村伯就の著した「自適園集」の中に、「友人 醫生 正木文京」という一文があり、伯就(1724-1790)とは同世代で交流があった人物だと考えられます。醫生とはお医者さんのことです。(この自適園集は全編に渡って漢文で書かれているので…今もって全容を解読しきれておりません。これはマジで骨が折れます…)

このほかにも「尾張名家誌」の「補遺編(伝未詳者)」の「醫術」項目に「風禅」という名前のみが記載されています。

さらに「金鱗九十九之塵」の第29巻、「宮町」の「茶道 正木文杏(←原文まま)」が記載されています。

名は風禅と号、且陶の名工にて将に印あり。貫龍の印、吉堂の印ありて、元贇焼にも不劣といへり。千家を好て茶道に名高し。安永天明の比の人。

金鱗九十九之塵

ちなみにこれらの郷土資料すべて「名古屋市図書館デジタルアーカイブ なごやコレクション」で閲覧可能です…!!!

金鱗九十九之塵とかさぁー…マジで探すの大変だったよ…巻頭に目録あるとはいえ、情報膨大すぎんよ…。

でも、本当に…マジくっそ超お世話になります…ありがてぇ。

こうした断片的な情報をいろいろまとめると…?

名古屋城下の宮町住んでいた医者で、名を「貫龍」といい、「文京(文杏は誤植?)」「風禅」と号しました。

安永年間(1772-1781)~天明年間(1781-1789)の人と伝わります。

茶道を嗜み、陶器の制作で名が知られていた人物だということが分かりますね。

文京の作品

文京はこの時代(江戸中期~後期)の「尾張の余技作家」の中でも、(希少なんですが)比較的数が残されており、実に様々な種類の焼き物を制作していたことが分かっています。

まず作品には「風禅」「吉堂」「貫龍」といった印銘あるいは彫銘があり、また「共箱」が添っている作品があるのも、この時代としては珍しいものです。

作っているのは殆どが茶器。茶碗・水指・香合・蓋置。このほかにも酒器などもあります。

轆轤を使った作品は水指などわずかにありますが、大半が「手捻り」と呼ばれる、指で形を成形していくもの。

釉薬の特徴としては志野・黄瀬戸・織部といったいわゆる「桃山の写し」ともいえる釉薬の技法を使ったものから、呉須(コバルト)を用いた青い釉薬、そして伝統的な瀬戸釉(鉄釉)、灰釉も…。

これだけのバリエーションに富んだ技術が、当時の瀬戸で既にあったことを間接的に証明しています(というか、そうでないと説明がつかない)。春岱が生まれる20-30年前のことですからねえ…。1700年代後半には、もう桃山写しの技術は瀬戸で確立されつつあった、という認識で良いのでしょう。

文京の作品はいずれも陶器で、磁器や楽焼のようなタイプは僕が知る限り見ていません。

さらに文京の特徴としては「小さな塑造作品」もあります。いわゆる「土細工モノ」というジャンル。実はこの特徴も「正木惣三郎・伊織」の親子と似通っている部分でもあり、余計に混同されがちなもう一つの理由でもあります…。

正木親子とは微妙に趣が異なりますが、モチーフを実に生き生きと造形しています。

恐らくこの文京の存在は、後の世代の尾張余技作家たちに少なからず影響を与えたのだろう、という気もします。

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