九朗作 瀬戸一重口水指
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九朗と言えば…
平沢九朗が作った(作らせた)茶陶の中でも、比較的数が多く残っているのがこの「瀬戸一重口水指」です。
九朗の作品は、瀬戸釉以外にも、志野・織部・黄瀬戸・安南写・唐津写など、様々な技法を用いていますが、とくに水指では「瀬戸釉」が多いです。
その出来栄えの良さが当時からとても評判になり、九朗が茶友から請われ、水指を贈っていたことが複数の消息資料に残されています。水指の中でも、比較的多く作られたこの「瀬戸一重口」は、九朗の代名詞的存在だったと思われます。
口の部分だけ少しくびらせてありますが、器形としてはシンプルな「一重口」です。
それゆえに「釉薬の焼き上がり」が全体の印象に大きく作用するため、釉薬の景色が一番の見どころです。
見る角度で表情を変える瀬戸釉
瀬戸釉は酸化鉄を呈色剤とした釉薬で、この鉄分の配合の微妙な変化や、窯の焼成温度、冷め方などの条件の違いによって、黒色~茶褐色~黄褐色になる釉薬です。
同じような鉄分を用いた釉薬でも、「瀬戸黒」「天目釉」「古瀬戸釉」「錆絵」「褐釉」など呼び方が変わります。厳密な線引きが難しいのですが…「瀬戸釉」は古瀬戸と褐釉の間ぐらいですかね。高火度焼成なので、褐釉ほど黄色っぽくは無く、赤褐色~茶褐色~黒の色を呈しているもの。
この水指はちょうど片側半分が黒っぽく、もう半分が赤味を帯びた色を呈していますね。
ある時は、この黒いっぽい部分を正面に置いて、別の取り合わせの時には赤っぽい面を手前に持ってきて使う。一度で二度おいしい、みたいな楽しみの感覚、わかりますかね?
こうして並べると、それぞれ別の水指みたいですね。(※売約済みにつき、画像掲載終了)
そんな茶人の好みを汲んで、意図的にこういう景色を狙って焼いたとすれば…極めて高い技術を持った陶工(春岱など)の存在を背後に感じますよね(というか、ほぼ確実に九朗のやきもの制作を手伝っています)。
「く」の箆目
底部には「六十五翁」の彫銘と、「く」の字の箆目。
「く」はもちろん「九朗(くろう)」の事で、これが九朗の作品の彫銘としてよく知られているものです。
とてつもなく簡素な彫銘ゆえに、後世にこれをマネて、九朗の作品と偽った贋作も作られることになるのですが…この水指は珍しく「六十五翁」の年齢が添っているタイプです。他の九朗の箱書や、茶杓の筒書に記した九朗の筆跡と符合するため、見極めが比較的簡単です。
共箱も九朗の基本フォーマット(甲書・器物の名称・署名・印)から逸脱しない、よく見られるタイプの箱書です。
留意点
焼成時、やきものが窯の中で冷めていく過程の中で、素地(土)と釉薬の収縮・膨張率の違いや、冷めるスピードの違いによって、固まりかけていた釉薬がちぎれ、画像(※売約済みにつき、画像掲載終了)のようになっているものがあります。
これは経年劣化によるものではなく、製作段階でこのような仕上がりだったものです。これが茶碗の高台に出来ると、「カイラギ」と呼んだりしますが…水指の場合は特にそういった見どころにはなりません。
この水指の場合は、殆ど水指の内側・口縁部に出ているので、大きく美観を損ねるものではありません。また指で上から触っても、そう簡単に取れたりもしません。ただ、使用後やお手入れの際、水指に残った水分を拭きとるのに「パイル生地のタオル」などを使いますと、この鮫肌のようになった部分にパイルの輪が引っ掛かり、強い力が横からかかると釉薬が剥落する危険があります。
手ぬぐい、もしくはサラシなどの「引っ掛かりにくい布地」を用いることを強くお勧めします。
また、内部の一か所に目視で確認できる亀裂が1か所あります。これも製作段階でできた「窯キズ」と呼ばれるもので、土を乾燥させる際に出来た亀裂がそのまま残っていますが、外側にはしっかり釉薬が掛かっており、その部分には亀裂が入っておりません。
長時間水を入れたままでも、漏れることがないのは当店で確認済みです。
備考
- 直径:約15.5cm
- 高さ:約14cm
- 開口部径:約14cm
- 付属品:共箱