世界に散らばる「知らなかった尾張国焼」
ご無沙汰しております。勉強部屋の発信が滞っており、楽しみにしている方に申し訳ないです…。
僕の方から発信するのは、もう少し時間がかかりそうです。これから年末にかけて、クッソ忙しくなるんで…。
そこで、皆さんの「自主的な勉強意欲を惹起するコンテンツ」をご紹介しようと思います。
美術愛好家の方たちなら、すでにご存じの方もいらっしゃるかも…しれませんが。
世界に散らばる「日本の美術」
美術品は「モノ」という形を持つ以上、人の手を介し、あちこちに移動していくものです。
人から人へ。町から町へ。山を越え、川を越え、そして海を越え。
当然、日本以外の国にも、日本の美術品は渡っています。
日本国内の美術館・博物館ではまだまだ「収蔵品の公開」が進んでいませんが、海外の美術館・博物館では「デジタルアーカイブとしてのコレクションの公開」がかなり進んでおり、特にお金もかからず、画像データの閲覧が可能です。
この国内外の公開のズレは、美術館・博物館のコレクションに対する考え方の違いが大きいと言えます。海外は「公共物・市民の財産」としての美術品という考え方が強く、日本は「私有物・館の財産」という考えがまだまだ根強いのでしょう。
まあ、個人的には「美術品として情報が分かるもの(公開されているモノ・自分の目で見たもの)」から理解を進めていきたいので、そもそも初めから公開されていない物は「無いモノ(見たことがないモノ=自分の理解の範疇に無いモノ)」と変わらないので、公開非公開の是非については特に意見はありません。(もっと気軽に見れたらいいのになー、とは思いますが…)
で、海外で進む美術品コレクションの公開データの中には、「日本美術」に関するものも少なくありません。
僕も最近まで知らなかったのですが、これがなかなかに面白い…。
分かる人に「見てもらえる」という可能性
この「国内外の美術館・博物館の公開コレクション」を簡単に探しやすくしてくれるサイトがいくつかあります。
それがコチラ。
Google Arts & Culture も、美術品の画像にリーチするのには手っ取り早いですが…。より横断的に「検索をかける」ならカルチュラル・ジャパンの方がいい感じです。
美術館・博物館のコレクションというのは、必ずしも「専門分野に限ったモノだけ」とは限りません。寄贈を受ける過程で「一括・まとめて館に入った」というコレクションは少なくないでしょう。そんなコレクションの中には「館に専門家が不在の分野のモノが混在する」ことも、時にはあります。要するに持っている美術館・博物館でさえ「よくわかってない物」が実はあるのです…。
一般の人の感覚からしたら、「えっ、美術館のくせに知らんの?!」と、ちょっと驚くかもしれませんね。(ここだけの話、実は大半の美術商だって、似たようなもんです。みんな、自分の知っていることしか、知りません…。)
これが海外のコレクションであれば、猶の事。実際、このカルチュラル・ジャパンで手あたり次第に調べてみて、驚きました。分かってないもんがまあまあ多い。というかかなりアバウト。そりゃそうですよねー。日本国内ですら、焼き物の専門的な学芸員って少ないのに、海外で日本の焼き物が分かる人って、何人いるんでしょう…?(まして、尾張国焼なんてまず分かってないでしょ…?)
なので検索方法は「ざっくりとした大まかな調べ方」がオススメです。細かく、専門的な言葉で調べると、なかなかヒットしません。
大きな枠組みでごっそり検索で拾ってきて、一つ一つを自分の目で見て調べる、という地道な方法です。
いろいろ見ている内に…
「あ、これはアレじゃん」「こんなところに、こんなもんあるんだ」「えー、こんな変なモノが館蔵品?わかっとらんの~」
みたいな発見が相次ぎました。オモロ―。
尾張国焼をさっそく見つけた
埋もれている美術品コレクションの中に、お宝が眠っているのです。世に知られていないだけで。
権利関係が面倒なので、カルチュラル・ジャパンのリンクをそのまま張っておきますが、こちらは「tea caddy」とだけ銘打たれた、茶入です。アメリカ・メリーランド州ボルチモアにある美術館「ウォルターズ美術館」が所蔵しているコレクション。僕は行ったことない美術館ですねー。
カルチュラル・ジャパンのデータについて
カルチュラル・ジャパンのページは、海外の美術館(国内の美術館も一部含む)が公開している、「IIIF(トリプル・アイ・エフ)」という画像相互運用の国際共通規格に沿ったデータを基に造られており、この画像自体に「さまざまな情報」が付随しております。その情報を分かりやすく、変換したものが「RDFデータ」というもの。
このRDFデータがカルチュラル・ジャパンの検索に引っ掛かる仕組みになっているのですが……まあまあ、このデータがアバウト。どこで作られたものなのか、どういう由来のモノなのか、手掛かりとなるデータがごっそり無いものもあります(中にはデータ登録があるものもありますが…間違っているものも)。
さらに英文を強引に機械翻訳でコンバートしているためか、一部の翻訳が「意味不明」な日本語になっていたりするので、日本語検索能力は限定的です。
「茶入の底が見たいな…」と思ったので、「収録DB(データーベース)」のリンクをクリックすると、ウォルターズ美術館のサイトに飛んで、別画像を見ることが出来ました。(すべての収録データで、このようにきちんとリンクされているわけではなさそうです)
そこで初めて「これ、楽々園焼(尾張徳川家の江戸藩邸の焼き物)やん!」と分かったのです。
RDFデータには、楽々園についてのデータは一切含まれておらず、恐らく所蔵美術館も把握していない物と推測されます。
ハッキリ言って「Google検索」ではこのような調べ方が出来ません。世界中の美術館の公開DBを横断して調べるには、Googleは適さないです。
結局のところ、クローラーがまんべんなく拾ってくる検索エンジンって、基本的に「広く浅く」ですからね。
ウチのページだって、尾張の郷土美術が気になる人しか多分アクセスしてないですし…。
「分かる」とは
美術品に限らず、あらゆる「モノ」は「自分自身が何者であるかを表す」ことはしても、ヒトと違って「自ら言葉を発することをしません」。まして「尾張国焼、集合!」って号令をかけても、美術品が勝手に集まることもしません。
改めて言うまでもなく、当たり前の話ですが…。
とすると、美術品を見るあらゆる人間たちによって、「それが何であるのかを判断する」というプロセスが必須なのです。「ただ見るだけ」ではない、積極的に「分かろう」とする姿勢は欠かせません。
美術館で展示品を見る際は「キャプション」によって、「それがどういったものなのか」という説明がされています。担当された学芸員さん、あるいは研究者、協力者たちによって「それが何であるか」ということが見て、研究され、判断された結果がキャプションという形に集約されるのです。(中には間違った判断をされるパターンだってあるでしょう)
あるいは茶会で用いられた道具。これは亭主が「よし、今回はこういう趣向で使おう」と決めて、使っているものです。展覧会のようにキャプションなどなくとも、「主客の問答」によって、その「判断」がなされていくわけです。見て、話して、理解する。茶道と聞くと難しそうに感じる人もいるでしょうが、やっていることはシンプルです。むしろリアルタイムかつ双方向のコミュニケーションゆえに、展覧会より分かりやすいかも?
カルチュラル・ジャパンなどで採用している「IIIF(トリプル・アイ・エフ)」や「RDFデータ」も、誰かしらが「判断した情報」を付随させることで、そのモノを理解する手助けとなるものです。
では、判断されなかったものは…?
…実は日の目を浴びないのです。検索にもなかなか引っかからない…。
「なんだかよく解らんけど、見た目オモロイので、とりあえず飾っておきます」という美術館の展覧会…。
茶会で「こちらのお茶杓の作者は…?」と客が尋ねて、「ええっと…知りません」という亭主の茶会…。
あまり聞いたことが無いですよね。あればむしろ、見てみたいと思いません?(笑)
そこで、カルチュラル・ジャパンがかえって面白いのです。分かっていない物が、結構見れる。
分からないことは、別に悪い事じゃない。「判断保留」というだけで、まったく価値が無いわけじゃないのですよ。
知見を「繋げて」初めて生まれる価値
現代はインターネットの発達で、画像データが瞬時に見ることが出来る世の中になりました。
こうした「公開データ」という取り組みは、いつか大きな成果が出るのではないかという期待が湧きます。ワクワクします。
ただ見れるようにしただけじゃ、まだまだですけどねー。「分かる」に繋げる事が大事。
SNSによる詐欺や犯罪の増加など、インターネットの普及による「社会への弊害」が目に見えて増えてきた昨今ですが…。
インターネットに求められていたのは、本来はこういう「遠く離れた場所で情報を繋ぐ」ことによる、新たな価値の創造です。
知見が繋がれば、そこに確かな価値が生まれる可能性がある。
この業界的には「本来価値あるものが、人知られず埋もれている」ので、価値の創造というより、再発見という方が正しいかも…。
案外、この世界は分かっていないことがまだまだたくさんあるんです。
あるいは知られていないだけ、ということは大いにあると感じます。
「繋げてみると、わかるかも」っていうのは、素敵な事だと思います。
とかいいつつ、ウチの商品は「見せ惜しみ」するんですけどね(笑)
情報は上げますが、画像はあんまり見せません。(単に面倒くさがりなんですが…)
これでも一応、そういう商売でやってますんで…人に見せずとも、自分のところの商品の事はそこそこ(?)分かっているのですよ…。中にはよくわからんモノも扱ってますけど(笑)
本気で見たい人は、お店に遊びに来てください。
美術品について教えてほしい人は、コッソリ聞いてもいいですよ。例のデーターベースでこんな変なもん見つけた、とか。
知ってることしか、教えられませんけどねー。それも特定の極めて狭い範囲で。(‘A`)
些細なことでもいいから、情報をつなげるお手伝いが出来れば、いいなあ。